8. 組織開発・HRの取り組み
8-1. 学習する組織
組織レベルで仮説を現実に問うことで示唆を得て継続的な学習サイクルを回し、世の中から求められる形にビジネスや組織を柔軟に変化させることで競合優位を実現するのが「学習組織(Learning Organization)」です。
ピーター・センゲopen in new windowが発行した「学習する組織open in new window」で有名になりました。
センゲは「組織の基本的な学習単位は仕事チーム(ある結果を生み出すためにお互いを必要とする人たち)である」という考えに基づき、3つのチームの中核的な学習能力から形成されると述べています。どれか一つでも欠けてしまうとチームの学習能力は損なわれてしまいます。
LAPRASでは、3つの中核的な学習能力を維持するため、取り組みを続けています。
-> LAPRASにおける学習する組織の詳細はこちらopen in new window
8-2. ホラクラシー
組織がひとつの生命体のように目的を実現するため、自己進化する組織を「ティール組織open in new window」と言います。ホラクラシーはティール組織を実現するためのフレームワーク(枠組み)です。
組織が有している機能(経理処理、セールスなど)をRoleに定義し、そのRoleが目的・権限・責務を有する仕組みです。これにより、会社が有している機能やメトリクス(KPIなど)を網羅的に把握することができ、学習する組織のシステム思考open in new windowが可能になります。
ホラクラシー憲法open in new windowというルールに忠実に従って運用することが求められるため、たとえば経営者であっても他の人の権限を犯すものは独断と偏見で進めることができません。
ホラクラシーではひずみ(意思決定者が曖昧、トラブルが発生した、など)が起きた際に、組織が自己進化する仕組みが取り入れられています。これによって、同じ問題が二度と発生しなくなります。
こうした仕組みによって、それぞれのRoleが経営者よりも強い権限を行使し、自律的に物事を推進し、問題に対して進化し続ける組織であり続けることができるのがホラクラシーです。
-> ホラクラシーに関する詳しい説明はこちらopen in new window
8-3. コンピテンシー
コンピテンシーは行動特性と表現されることが多いですが、Boyatzis(1982, p.21)の「ある職務において,効果的もしくは優れた業績という結果を生む人の根源的な特性.(人の根源的な特性とは,動機,特性,スキル,自己概念もしくは社会的役割といった側面,もしくは人が使用する知識の総体) – ‘an underlying characteristic of an individual that is causally related to effective or superior performance in a job’.」という定義を基準に考え始めました。
Spencer & SpencerやBoyatzisのモデルでは、制度運用するうえで測定しづらい特性や動機といった要素が含まれています。役割等級制度(≒ 職能資格制度+役割による成長の期待)で運用するにあたっては「能力とは企業における構成員として,企業目的達成のために貢献する職務遂行能力であり,業績として顕在化させなければならない」(旧日経連,1969,p.18-19)という観点に則ると、古川(2002, p.193)の「既存の能力指標や職務分析による職務特性(要件)とは異なっており,行動として顕在化し観察可能であるが,個人が内的に保有し学習によって獲得される,職務上の高い成果や業績と直接的に関連した,職務遂行能力に関わる新しい概念」という定義がより運用の実態に近しいと考えています。
そこで、LAPRASにおけるコンピテンシーは、この定義に則って業務遂行に関わる測定可能な業績差別化要因として、BEI(行動評価面接)によって計測することを前提とし、採用・昇格の等級判定等に用いています。
計測するコンピテンシーの項目に関しては、LAPRASでは組織と個人は対等なアライアンス関係であるという考えに基づき、Douglas T. Hallの提唱したプロディアン・キャリアを実現できるメタ・コンピテンシーと、LAPRASが重要視するコンピテンシー、後天的に開発が困難しづらいコンピテンシーを中心として設定しています。
LAPRASで計測しているコンピテンシー
- 適応・学習能力
- セルフ・アウェアネス
- 達成能力
- 自律性
- 秩序
- 計測・分析能力
- アイデンティティの確立
- レジリエンス
- 概念化思考
- 影響力の行使
- 他者尊重・インテグリティ
これらの項目をコンピテンシー・ディクショナリを参考に、行動インディケーターを設計し、構造化面接による質問とフォローアップで計測しています。
8-4. 能力の開発は機会によって作られる
Kolb(1984)の経験学習モデル(図①)や古川(2002)のコンピテンシー・ラーニング理論を参考とし、チャレンジを促進することによって経験(自己・他者)を通じて能力を開発する取り組みをしています。
現状より大きな役割を期待する運用となっている等級制度は、より視野の拡張と転換をもたらします。等級ごとに定義された各コンピテンシーの発揮が求められることによって、従来の視点を拡張・転換し、習慣行動による効果的行動の探索と意図的な行動の実行、ホラクラシーのメトリクスによる可視化から結果・プロセスを振り返り(意識化習慣)、抽象的な概念へと昇華し、そこから得た示唆によって仮説を立て、その実行によって経験するというサイクルを実行しています。
LAPRASの評価制度では、結果だけではなく、仮説の検証による学びも評価の対象となります。そのため、自律的に仮説を検証し、学習するサイクルを早いスピードで回すことに対するインセンティブが働きます。
このように、学習する組織のための仮説検証サイクルが、個人の能力を向上させ、また、昇給や昇格にダイレクトにつながっているので、三方良しの関係を形成しています。
図①
8-5. ダイアログ
ダイアログは「dialogos(意味が流れる)」を語源にもつ、対話を意味する言葉です。
LAPRASでは、ひとつのテーマに対して物事の結論を決めるのではなく、「全員が平等に、ただありのままにどう感じるかを表にさらけ出す場」としてダイアログopen in new windowを行っています。ディスカッションではありません。ただ、あるがまま、お互いの感じ方が違うこと(incoherence)を確認する場です。
感じ方が違うということを確認できればそれで目的が達成されます。トーキングスティックを全員で回し、否定されず、さまざまな意見が出ることを促がし、言葉がその場を漂うような感覚を得ることができます。
そこで様々なナラティブが共有されることで、そのテーマに対するディスコースが形成される。自分の意見も、ほかの人の意見もフラットに様々な角度で意味づけがなされる。こうして共有されたディスコースはKenneth J. Gergenのいう社会構成的なopen in new window生成的イメージをもたらします。
こうしたプロセスを経ることによって、今までと違った視点や組織としての道筋が見え、チェンジマネジメントを実現しています。
8-6. 匿名の組織サーベイ
記名型の組織サーベイでは、忖度が働くことは避けられません。そのため、LAPRASでは、3か月に1度匿名の組織サーベイを実施しています。
ここで見えてきた課題は、次の3か月の重点課題として必ず対処されます。
全体として良い傾向が出ていても、一人でも大きな問題を抱えていればそれは取り上げられるべきです。組織サーベイの調査者とは別の閲覧者を指定し、記名型のフィジカル/メンタルチェックを毎月実施しています。組織サーベイの閲覧者に対して言いづらいことがある場合でもこちらで個別の状況を把握できるようにしています。
8-7. セキュアベース
人間は、ポジティブな情報よりもネガティブな情報のほうを重く評価します。特に、リモートワークで働く人にとっては孤独(自己疎外・実存的孤独・社会的孤独)を感じたり、入社直後はパフォーマンスが出せるか不安に感じることがあります。
だからこそ、例えば、LARPASで能力不足と認定されるのはどういったケースなのかということを言語化し、それに当てはまらない場合には能力不足と見做さないと明言することが重要です。
このように、これがあるから大丈夫である。と確信できる「安全基地(セキュアベース)」を作ることによって、楽しみながらリスクをとることができ、失敗を恐れずに学習することが可能となります。
8-8. バーチャルオフィス
フルリモートワークでは物理的なオフィスに全員が集まることは現実的ではありませんが、バーチャルオフィスであれば可能です。社内セミナーをバーチャルオフィス上でやったり、常時接続の雑談ツールを入れたりすることによって、同じ場所に居なくてもともにいるかのような感覚(共在感覚)を得ることが可能です。
また、繋がっていることによって発生する偶発的なコミュニケーションは、新しい発見であったり、ストレスを緩和するポジティブな快を生み出します。
8-9. オフサイト
フルリモートワークで働いているからといって、会うことに意味を見出していないわけではありません。地方在住者も含めて、交通費・宿泊費を会社持ちで3か月に1度ほど、オフサイトミーティングを実施しています。
希望者のみの参加ですので、強制ではありません。
普段リモートワークであるからこそ、会うことを祭事・特別なハレの日としてハッカソン、交流イベント、ダイアログなど最大限の活用を行っています。
8-10. Soul Purpose
ホラクラシーには組織としてのPurposeがありますが、人間にはひとりひとり固有のPurposeが存在します。
それをSoulのPurposeと呼び、社内で自分はどのように行きたいのか、LAPRASで何を実現したいのかを振り返る機会を設けています。外部のコーチに依頼して実施することもあります。
8-11. ローコンテクストカルチャー
フルリモート・フルフレックスで業務を進めるためには、非同期コミュニケーションが必要不可欠です。
また、昔からいる社員も新しく入社した社員もドキュメントを読めば等しく理解できる状態を実現するため、社内ではローコンテクストのドキュメンテーションルールを策定し、テキストコミュニケーションの品質を高める試みをしています。
8-12. ニューロエコノミクス
リモートワークでは知らず知らずのうちに精神が損耗し、「languishingopen in new window(徐々に衰退する)」と呼ばれる状態になることがあります。
これも脳の観点から見るとリモートワークでなんの良い刺激が発生しない状態で居続けると、日常的なストレスに対して快の刺激が不足して損耗することからなるようです。人間の脳の報酬メカニズムopen in new windowを読み解いていくと、信じる対象への貢献、生理的報酬、美、人とのつながり、競争、意外な出会い、協力、信頼、賞賛、達成、道徳的行動などといった刺激が快となるということが見えてきます。
また、人間がなぜ孤独open in new windowを感じるのか、ネガティブを強く評価するのかopen in new windowといったものを、脳の人間本来の機能としての観点と社会的に形成される価値観などから読み解いていくことで、人が何によってパフォーマンスが阻害されているのかという原因がわかるようになります。
このように、人間の脳が生来どのように反応するのかという観点から、インセンティブやネガティブな阻害要因の排除を設計し、パフォーマンスの高い学習する組織を実現する模索を行っています。